旅と本

本と旅行とおいしいものについて

ベルリンは晴れているか(深緑野分)

 

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)

 

1945年のベルリン。米国の兵員食堂で働くドイツ人少女アウグステは、かつての恩人クリストフが遂げた不審な死に関わっている疑惑を向けられる。彼は青酸カリ入りのアメリカ製歯磨き粉を口に含んで亡くなった。その訃報を彼の甥に伝えるため、アウグステは陽気な泥棒カフカを道案内としてその行方を探す旅に出る。

 

 ミステリー部分以外が秀逸。過酷な状況の中でいつも清く正しくなんてきれいごとだけど、懸命に生きる人々。現在と幕間として描かれるアウグステの過去が交互に現れ、それぞれの立ち位置からの描き方にどれも惹かれた。アウグステも、カフカも、旅で出会う人々も、この先に光がありますように。そういう意味ではとてもよい読後感。以下、物語の核心部分に触れる部分は続きに。

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草々不一、福袋(朝井まかて)

 

草々不一

草々不一

 
福袋

福袋

 

 最近読んだ本など。「草々不一」が初朝井作品だったのですが、表題作が良かったので続けて読んでみました。

「福袋」は暮れ花火の修吉が良かったなあ~! 不器用な男の純情、いいですね…。

それぞれに味わいのある短編集なんですけど、結構合う合わないがあったというか、個人的には純愛や家族の愛がにじむ話が好みだったので、今後朝井作品を読むならそういう方向をせめたいところ。

傲慢と善良(辻村深月)

 

 

傲慢と善良

傲慢と善良

 

この人は――とても鈍感なのだ。

 架の婚約者・真実が消えた。思い出されるのは二か月前、彼女が「ストーカーが家にいる」と怯えて電話をかけてきた夜のこと。

真実の行方、そしてストーカーの正体を探るべく彼女の周辺や過去を調べ始める架だが、やがて意外な真実が見えてきて――という話。

前半はサスペンス風味。真実が地元でしていた婚活の描写が妙にえぐくてウッと胸が詰まりそうになる。ことの「真相」はわりとわかりやすく伏線が散りばめてあるので察しがついた。

それが明らかになってからの後半は雰囲気が一転、東北でのボランティア現場でのハートウォーミングな話や恋愛面にフォーカスされるので驚く。ラブストーリーとしては面白かった。そこが好きだ、と言えるのならそれは恋愛でしょう。

ただ、全体の構成としては少しちぐはぐなような。本当に婚活部分がいい意味でいや~な感じだったので、そこがそんなにうまいこと落着しちゃっていいのか、っていうもやもやはやや残る。

架の女友達がほんとのほんとに嫌な女なんだけど、あそこまで直接攻撃に出るかってのはさておいても、もし自分が架の知り合いで、この騒動の後結婚したって話を風の便りにでも聞いたとして、「うわあの人いい人なのになんかちょっと変な女の人につかまったぽいな」という感想を抱かずにいられるかって聞かれると、正直自信ない。

写真館でのボランティア、なんだか読んだ覚えが…と思ったら「青空と逃げる」の二人でしたね。

 

 

最近辻村さんの本は図書館借りてばかりいる。安定して読みやすいし、今回もするすると面白く読めた。

けれどデビュー時の、美少女の名前に自分の筆名つけちゃっても、キャラが痛々しくてもなんでも、ドカンと読者を夢中にさせるでっかいパワーみたいなものは明らかに失われていてなんか切ない。

久しぶりに「子どもたちは夜と遊ぶ」を読み返そうかな。

あなたの愛人の名前は(島本理生)

 

あなたの愛人の名前は

あなたの愛人の名前は

 

「気づいてさ。金って、愛があるからじゃなくて、関わりたくないときに渡すもんだって」

 どれも少しだけ繋がっている連作短編集。その中でも「あなたは知らない」「俺だけが知らない」は対になっています。

婚約中の瞳さんとあいまいな関係で体を重ねる浅野さんは、優しいけれど、恋とか愛とかがわからないと思っているし、瞳さんも何となくそれがわかっている。それでも少しずつ心を通わせる二人。

瞳さん視点の浅野さんは本当に魅力的でやわらかくて、彼も何らかの想いを向けてくれているように思えるのだけど、浅野さん視点の彼はちょっと酷薄。でもたぶん、失うことなんて考えてなかったのは彼の方。手放したのは瞳さんの方。

個人的にすごく好きな二人で、婚約破棄したんだったらくっついちゃえよー!と願ってたらあの封筒の中身でこっちの心臓まで凍った。瞳さんの方が愛に自覚的だっただけにある意味容赦ない。あれほどすれ違っていた二人なのに、浅野さんがとてつもなく「正しく」封筒の中身の意味を理解したのが切ない。

表題作は浅野さんの妹のお話。タイトルはこんなだけど、前向きな話でひとつ前の「氷の夜に」と合わせてこの本自体を明るく締めている。黒田さん、いい男だと思います。浅野さん、まだ引きずってるな。

 

しかしこの本の一番の教訓は、恋人の地元の友達とのバーベキューになんぞ行くものではない、というところかもしれない。現実でもフィクションでも大体ろくなことにならない。

政略結婚(高殿円)

 

政略結婚

政略結婚

 

「…………はい」

 呆然としたままタカさんは言った。ようやく声が出た、といった風に見えた。

「すべて、貴女のおっしゃるとおりにします」

 

三つの時代を生きた女性の、政略結婚を巡る話。

と、言っていいのかどうか。タイトルと表紙の雰囲気に惹かれて読み出したんだけど、実際あんまり政略結婚関係ない。「お家」というものに縛られながらも前向きにまっとうにいきいきと生きた女性たちのお話ではあると思います。

正直このタイトルで、縁のある女性たちを繋ぐ九谷が描かれた趣向としては中途半端に終わっている印象です。が!

特に二つ目のお話、「プリンセス・クタニ」がもう単にとても胸がきゅんとするラブストーリーだったのでもうそれでいいんじゃないかな!

幼少期を過ごしたカナダから江戸時代の風習が色濃く残る明治期の日本へ帰国し、日本で初めてサンフランシスコ万博の華族出身コンパニオン・ガールになった女性の物語。

華族ながら独立心にあふれた万里子と、彼女の友人の兄・タカさんの距離感がたまらないのです。

あと私はたぶん、「友人のきょうだいとの恋」というシチュエーションにめっぽう弱い。

校閲ガール トルネード(宮木あや子)

 

「いいよ。今日の夜空いてる? 飯食おうぜ」

「なんでよ、いま取りに行くか、あとで届けてよ、なんであんたとご飯食べなきゃいけないの」

「接待用に開拓しときたい店があんだよ、ひとりで行くのもかっこつかないから、おまえ付き合え。俺のおごりで東京いい店たかい店だぞ」

ゴチになります!」

 間髪入れず答えた悦子に、ゲンキンだなー、と呆れた顔を見せたあと、貝塚は「じゃああとでな」と言って何故か若干スキップ気味に戻っていった。

なんでここ引用したかっていうと、スキップで戻る貝塚が可愛いってだけなんですけど。

 

 おしゃれ命、ファッション誌の編集になりたい執念だけでコネもなしに出版社に就職したものの、何故か校閲部に所属された河野悦子のお仕事小説第三弾。ドラマ化したこのシリーズも、ついに完結です。

綺麗にオチてはいるけど、その後も気になる感じ。番外編、あるいは他の作品にちらっとだけでも登場して欲しい。(作者ブログを確認したところ、やはりこれで完結したらしい。加奈子ちゃんは再登場の可能性アリとのことなので、悦子のその後がちらっと書かれたらいいなー)

ドラマは、正直お仕事部分(校閲)に関する部分は控えめに言ってクソ(失礼)だったんだけど、キャスティングや人間模様や恋愛に関するアレンジがほんっとうに好きで、その部分に関しては前作アラモードまでをうまーく落とし込んで着地させていて見事だった。

ら、なんと、9月にスペシャルドラマで帰ってくるらしい。

私、ドラマのタコこと貝塚とえっちゃんの絡みが好きで好きでたまらなかったので、トルネードの内容を実写キャストで見られたら嬉しすぎるんですけども。貝塚の青木さんがでっかくてがっしりしてるのと、えっちゃんの石原さとみがちいさくて華奢で可愛いのがもうたまらなくてね……。やきもちやいてじたじたしている貝塚を青木さんで見たいいい

あらすじ見たところあんま関係なさそうですけども。いやでも、あの展開をちょびっとでも下敷きにしてくれれば……(往生際が悪い

 

で、続きからは、トルネードの話。

 

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ダマシ・ダマシ(森博嗣)

 

ダマシ×ダマシ (講談社ノベルス)

ダマシ×ダマシ (講談社ノベルス)

 

「こうやって、事件のことをああでもないこうでもないって、小川さんと話すのが楽しくて、ああ、これが僕の青春だったんだなって、今わかりました。だから、うーん」

「だから、何なの?」

「だから、もう充分かなって」 

 

Xシリーズ六作目にして完結編。

綺麗に終わっているな、という印象。色々な人たちの再スタートの話。

小川さんがとても好きだった。

 

「青春だった」という台詞が少し切なかった。

私恐らく本筋であるS&Mよりも、VやGシリーズのほうに思い入れがあるんだけど、たぶんそれは終わりに向かっていく物語だから。S&Mは根本的には犀川先生と萌絵ちゃんの話で、それは二人がいる限り続いていくんだろうけど、他は違う。何とも名前をつけがたい関係性の男女複数人が、わりとどうでもいい理由でいつも一緒にいて、本当に馬鹿みたいに一緒にいたんだけど、ある日ふっとその関係性は終わる。Xもそうだったんだなと。

 

事件とは直接関係のない話。

真鍋君と永田さんがああいう結末を迎えるとは当初思ってもみなかった。いざというとき頼りになる男ではあるよね。(例:小川さん布団巻き)

けどバイト先やらそこで手に入れたブツでやったことが怪しすぎ。だいじょうぶかあいつ。正直、盗聴器の下りは事件解決とあんまり関係なかった気がするんだけど、なんかの伏線だったりするのかな。

そういえば、真鍋君が小川さんのことどういう風に思っているのかが個人的に謎だった。永田さんいるし、そういう風でもないんだけど、椙田さんとの仲は邪魔したがるし。

けど今巻で、まあ本人の言っているとおり、精神的保護者と言うか、純粋に小川さんが好きで心配してるんだなーというのがわかったような。個人としてはボスが結構好きでも、ママの相手としてはうさんくさすぎるってやつですかね。合ってるけど。

ともあれ、永田さんが可愛くて、幸せそうでよかった。

 

シリーズを振り返ると、だいたい二~三十代の傷を抱えた独身女性が登場して、小川さんがいつも危なっかしいくらい同調して心を寄り添わせていたな、というのがわかって、結局は小川さんの傷と再生の物語だったような気がする。表の物語としては。

 

 で。

で、裏のほうの話。

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