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傲慢と善良(辻村深月)

 

 

傲慢と善良

傲慢と善良

 

この人は――とても鈍感なのだ。

 架の婚約者・真実が消えた。思い出されるのは二か月前、彼女が「ストーカーが家にいる」と怯えて電話をかけてきた夜のこと。

真実の行方、そしてストーカーの正体を探るべく彼女の周辺や過去を調べ始める架だが、やがて意外な真実が見えてきて――という話。

前半はサスペンス風味。真実が地元でしていた婚活の描写が妙にえぐくてウッと胸が詰まりそうになる。ことの「真相」はわりとわかりやすく伏線が散りばめてあるので察しがついた。

それが明らかになってからの後半は雰囲気が一転、東北でのボランティア現場でのハートウォーミングな話や恋愛面にフォーカスされるので驚く。ラブストーリーとしては面白かった。そこが好きだ、と言えるのならそれは恋愛でしょう。

ただ、全体の構成としては少しちぐはぐなような。本当に婚活部分がいい意味でいや~な感じだったので、そこがそんなにうまいこと落着しちゃっていいのか、っていうもやもやはやや残る。

架の女友達がほんとのほんとに嫌な女なんだけど、あそこまで直接攻撃に出るかってのはさておいても、もし自分が架の知り合いで、この騒動の後結婚したって話を風の便りにでも聞いたとして、「うわあの人いい人なのになんかちょっと変な女の人につかまったぽいな」という感想を抱かずにいられるかって聞かれると、正直自信ない。

写真館でのボランティア、なんだか読んだ覚えが…と思ったら「青空と逃げる」の二人でしたね。

 

 

最近辻村さんの本は図書館借りてばかりいる。安定して読みやすいし、今回もするすると面白く読めた。

けれどデビュー時の、美少女の名前に自分の筆名つけちゃっても、キャラが痛々しくてもなんでも、ドカンと読者を夢中にさせるでっかいパワーみたいなものは明らかに失われていてなんか切ない。

久しぶりに「子どもたちは夜と遊ぶ」を読み返そうかな。