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あなたの愛人の名前は(島本理生)

 

あなたの愛人の名前は

あなたの愛人の名前は

 

「気づいてさ。金って、愛があるからじゃなくて、関わりたくないときに渡すもんだって」

 どれも少しだけ繋がっている連作短編集。その中でも「あなたは知らない」「俺だけが知らない」は対になっています。

婚約中の瞳さんとあいまいな関係で体を重ねる浅野さんは、優しいけれど、恋とか愛とかがわからないと思っているし、瞳さんも何となくそれがわかっている。それでも少しずつ心を通わせる二人。

瞳さん視点の浅野さんは本当に魅力的でやわらかくて、彼も何らかの想いを向けてくれているように思えるのだけど、浅野さん視点の彼はちょっと酷薄。でもたぶん、失うことなんて考えてなかったのは彼の方。手放したのは瞳さんの方。

個人的にすごく好きな二人で、婚約破棄したんだったらくっついちゃえよー!と願ってたらあの封筒の中身でこっちの心臓まで凍った。瞳さんの方が愛に自覚的だっただけにある意味容赦ない。あれほどすれ違っていた二人なのに、浅野さんがとてつもなく「正しく」封筒の中身の意味を理解したのが切ない。

表題作は浅野さんの妹のお話。タイトルはこんなだけど、前向きな話でひとつ前の「氷の夜に」と合わせてこの本自体を明るく締めている。黒田さん、いい男だと思います。浅野さん、まだ引きずってるな。

 

しかしこの本の一番の教訓は、恋人の地元の友達とのバーベキューになんぞ行くものではない、というところかもしれない。現実でもフィクションでも大体ろくなことにならない。