旅と本

本と旅行とおいしいものについて

回樹(斜線堂有紀)

 

連作短編集。作者初のSF作品とのことだけど、いい意味で斜線堂さんお得意のジャンルという感じ。

テーマは愛。だと思う。私も大好きなやつですね。

 

「回樹」死体を取り込むとその人への愛情が転移する木。愛していなければ…

「骨刻」もし骨に文字を刻む技術があったら…

「BTTF葬送」映画には魂がある。古い映画を“葬送”しなければ新たに面白い映画は生まれないとしたらどうする?

「不滅」もし死体が永遠に“不滅”になったら…死体の置き場所はどうなる?

 

どれもよかったけど、特に好きなのはこのへん。結局どうしようもなく愛の話をしておりそこが好きだなあ。

SFとしては、「骨刻」や「不滅」のように、新しい技術や現象が最初どう受け止められ変化し最終的にどう行きつくのかが描かれるのも面白い。

切なさが残る話が多い中、軽やかさのあるBTTF葬送が一番好きかもしれない。

すごく面白かった。斜線堂さん、またこの路線も読んでみたいです。

(あでも、ひとつだけ。恒例の死ぬほど読みにくい登場人物の名前はそろそろやめてもらいたい…)

 

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貸本屋おせん(高瀬乃一)

 

#NetGalleyJPにて読了

女だてらに貸本屋を営むおせん。母は出奔、父は自死、当時は嫁き遅れと称される年齢にさしかかるも、一途な幼馴染・登の求愛を交わしつつ、今日も貸本をかついであちこちを回る。

きっぷのいいおせん、彼女を見守る地本問屋の喜一郎や長屋の住人、それに登。魅力的な登場人物が多く、一気に引き込まれました。特に登、結構いい男だと思うので、続編があればこのあたりの進展も見てみたいところ。

こちらが初単行本とのことですが、とてもそうは思えない完成度と読みやすさ。続編でも、新たな作品でも、ぜひ読んでみたいです。

 

私が一番好きな話は、第三話の「幽霊さわぎ」かな。本の中にある志津のうつくしさ。どんな美女でもかなわないのだろうな。

 

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とりどりみどり(西條奈加)

 

「いいじゃないですか、とりどりみどりで」

鷺之介は数えで十一歳、裕福な廻船問屋の末息子。優しく思慮深い長兄は大好きだけれど、かしましく強すぎる姉三人には振り回される日々。

最初の長姉の嫁ぎ先の話で、姉の夫をただの嫌な奴で終わらせてしまわないところでぐっと引き込まれた。このバランス感覚というか、「塩梅」はラストまで続いていて、ずっと影の薄かった年中留守にしている父親が最後いいところを持っていくのがとてもよい。姉たちが強烈な話ではあるんだけど、父と兄の秘密のサシ飲みでぴしっと締まるというね。いつか鷺も加わって三人で飲めるといいね。

そういえば鷺は弟か妹ができるかも…なんて心配をしていましたが、たぶん、できないんだろうなあ。

とてもいい話でした。

 

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黒蝶貝のピアス(砂村かいり)

#NetGalleyJPにて読了

同僚、上司、部下。 仲が良かったけれどしばらく会っていない大学の友達、学内では一緒だったけれどそれ以外では会わなかった友達。 気まずくなった高校の同級生、かつて一緒にステージに立った仲間。 かつて憧れたアイドル。かつて憧れのまなざしを向けてきた少女。 元ローカルアイドル・アゲハだったイラストレーター・菜里子。アゲハに憧れアイドルを目指していたことのある環。環が菜里子の会社に就職することで「再会」した二人と、それを取り巻く女性達との関係性が丁寧に描かれた作品。 ただただ明るいものとはいえない。でも、暗いだけのものではない。 断ち切ってしまいたくなる瞬間もあった。でも、やっぱり繋がっている。 女性の人生にはいくつもの選択と分岐点があって、かつて同じ場所にいた者たちが遠く離れてしまうこともあって、でもきっと、また繋がったり、離れても繋がりを感じたりするのだなあと思う。

登場人物の女性たちには生々しさがあるし、生き方も様々で、いいところばかりが描かれるわけではない。でもみんな、愛おしかった。そこが一番好きだ。

砂村さんの作品は初めて読んだのだけれど、ほかの作品も読んでみたいと思う。

 

 

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君に光射す(小野寺史宜)

 

「石村くんが人にたすけられてもいいんだと思うよ」

「え?」

「たすけるばかりじゃなくて、たすけられてもいいんだと思う」

「ああ」

「でね、こうも思った。その役をわたしがやるのもありかなって」

 

教師をやめて施設警備員になった主人公・石村圭斗の過去と現在が交互に語られる。

商業施設で見かけた置き引きをしようとした女の子。元同級生からのストーカー行為に悩む教え子の母親(シングルマザー)。

実際こういうとき、どうしたらいいんだろうね。

石村君は正しい。

けれど、教師を辞めるべきだったとは思わないけれど、やっぱり彼は危なっかしいとは感じる。じゃあどうすればいいんだと考えたときに、帯にもなっている渋川さんの「きみだってたすけられていい」という言葉に尽きる。渋川さんがいてよかった。

なんとなく小野寺作品には、健気に子育て中のシングルマザーと出会う好青年が良く出てくる気がする。両想い、片想い、恋愛にはならない(今回)などパターンはそれぞれだけど。

そうそう、最初に出てくるゲーセン好きの宮脇くん、なーんか気になってたんで、最後にちょろっと出てくれて嬉しかった。あそこで読後感がよくなったな。

ただ、視力が下がっているのに眼鏡を嫌がる話は、主人公の精神的な視野の比喩なんだろうけど、しょっちゅう悲惨な事故が起きている現代で妙に不穏に感じてしまったからなくてよかったなあ。

あと、ちらりとしか出てこない(必要ではあるんだけど)人物までフルネームだったりで記載されると情報が多すぎて疲れる。シングルマザーの元夫のフルネームなんて絶対いらない。筆致は淡々としているのに妙にくどく感じるのはこのせいかも。

と、読みにくい部分もあったんだけど、全体としてはとてもよかった。ここ最近の小野寺作品にはぴんとこないことが多かったので久々のあたり。

そろそろ著作を追いかけるのをやめようかと思っていたんですが、やっぱりもうちょっと追ってみよう。

 

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朝星夜星(朝井まかて)

 

「料理人は朝は朝星、夜は夜星をいただくまで働くったい」

 

日本初の洋食屋を作った草野丈吉の妻、ゆきの物語。

夢を追いかける男とその糟糠の妻の話と言えばそうなんだけど、この丈吉の女癖にイライラしちゃってもう!

最初はね、本当においしそうに食べるゆきを見染めた丈吉を見る目のあるいい男だと思ったんですよ。

ところがどっこい、プロと遊ぶも本気にさせて手切れ金を払う、新しい店の店員にやる気ない愛人を入れる、挙句に三人の妾を囲う。

途中読むのが辛くなってくるも、松竹梅のあたりからいっそ笑えて来ちゃって。

どんなときも長崎訛りの抜けないゆきのおおらかさに救われて読了しました。最後がゆきと松竹梅で締められるのもよかったな。

 

私はゆきに「押しが弱い、撤退が早い」と言われてしまった星岡さんが好きです。

長生きしてほしかったけれど…

 

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夜が暗いとはかぎらない(寺地はるな)

 

夜が暗いとはかぎらない

夜が暗いとはかぎらない

 

閉店が決まったあかつきマーケットのマスコット、あかつきんが物語のそばとか後ろとか見えないところで走ったり転んだり人助けしているような話。単純に言うとそのマーケットのある暁町で暮らす人々の連作短編集。

 

 初読みの作家さん。登場人物が多いのでメモを取りながら読みました。繋がるのかと思ったところが繋がらなかったり、思わぬところが繋がったり。特別なことが起きるわけではないけれど、みんな色々あるけれど、基本優しく生きている人たちの話でほっとしました。

あの夫婦は大丈夫なのかなあ、とか、葬儀屋さん悪い意味でなく浮いてて怖い(あの町にはあかつきんいないし…)、とか、心配事の多い日々の中でも覚えてないぐらいさりげなく見知らぬ高校生に水を差し出せる人はすごいなあ、とか、色々と思いをはせたり。

そういえばこの本が六月末、つまり2019上半期最後に読んだ本だったのですが、なかなかさわやかな読後感で迎えられてうれしかったです。他作品も読みたい。